Camino de Santiago

巡礼者との対談/明日の夢 Yuta Sawada

第2章 出発/ロンセスバージェス→サンティアゴ

編集T:
どこからスタートされたんですか?
澤田:
ロンセスバージェスです。フランスの国境近くで、スペインの中で最初の出発地とされている町です。
編集F:
そこからサンティアゴまで、どれくらいの距離と日数ですか。
澤田:
距離は約750 km。歩いて30日か31日ぐらいです。
編集F:
きっかけは、どういうことでしたか?
澤田:
巡礼については、ぜんぜん知らなかったんですね。自分のお金で留学していたので、1年もたつと、お金もなくなってきたんですね、でももう少しいたかったんです。その時、同じ学校でスペイン語を勉強していたアメリカの女の子が巡礼道を歩くっていうので、どういうことなのか聞いたんです。1ヶ月くらい歩いて旅をするんだけど、お金はあんまりかからないらしいよって言うので、じゃあ僕もというわけで、でかけたんです。それで地獄をみました(笑)。
編集T:
やっぱり、たいへんでしたか?
澤田:
ええ、きつかったです。
編集F:
体力的に?
澤田:
そうです。普通のスニーカーで歩いちゃったんです。それがもう大失敗で。事前準備はかなり重要ですね。実際2、3日で諦めちゃう人とか、倒れてドクターストップがかかる人もいますから。
編集F:
なるほど。
澤田:
で、マメができちゃって、足の裏が地面につけられないぐらい痛いんですよ。巡礼宿にきたボランティアのお医者さんに、マメの水を取ってもらい、そこに薬を注射器で入れてもらいました。よほどの理由がないと同じところに滞在できないので、その日は一日寝て、次の日の朝、なんとか行けそうなので、また歩きだしました。
編集T:
1日休んだだけで、行かなきゃいけないんですか?
澤田:
そうですね。でも1週間くらい経つと、足も慣れてきて、筋肉もついてきます。10日目ぐらいからはもう楽ですよ。逆に、どんどん歩きたくなりますね。2回目のときは、登山靴を買って、先に10日間ほど、毎日20 km.くらい歩きました。そのせいか、2回目はまったく軽快に行けました。
編集A:
ウォーキングシューズじゃなくて、登山靴で歩くんですか?
澤田:
そうですね。ガイドブックにも書いてあるんですけど、やっぱり山あり谷ありなので、そういったところでは登山靴がいいですね。2回目のとき、奥さんも連れて一緒に歩いたんですけど、さんざん言ったのに、彼女はスニーカーにしたんですね。僕の1回目と同じになりました。僕がスタートしたロンセスバージェスって町は空港もないんです。だからパンプローナって牛追いの祭りで有名な町からバスで行くんですよ。
編集A:
そこにたどり着くのは、けっこう大変そうですね。
澤田:
ガイドがいないと、迷うでしょうね。
編集A:
日本から行く場合、空港なんか、まったくないような所なので、スタート地点まではローカル線を乗り継いで行くことになると思うんですよ。

事前準備

編集F:
話をちょっと遡って、最初に事前準備がありますよね。どういうことが大事ですか。
澤田:
はじめての人はガイドブックを買うといいですね。
編集T:
これは現地のガイドブックですね。
澤田:
ええ、これはスペイン語ですが、お薦めです。ここからここまで歩くと何km.かとか、泊まるところはあるかとか、すべてわかります。スタートした町からサンティアゴまで、残りのkm.が全部書いてあるので、ずいぶん参考になりますよ。
編集T:
巡礼の最短の距離である100 km.だと、どの辺ですか?
澤田:
残り100 km.だと、こういう小さな村ですね。でも巡礼証明書が欲しいから100 km.だけ巡礼するって人はあんまりいないですよ。それにあとで説明しますが、その旅は、もっとも過酷な旅になりますよ。

EL CAMINO DE SANTIAGO A PIE

※編集部注/スペイン版ガイドブック
種 類:スペイン語版
題 名:EL CAMINO DE SANTIAGO A PIE
出版社:EL PAIS AGUILAR
TEXT :Paco Nadal
寸 評:シンプルなイラストで詳細な移動距離と土地の高低が記載されている。
購 入:日本でもネット書店で入手できる。

澤田:
ガイドブックでいちばん大事な記述は、その村に泊まるところがあるかどうかです。ここに事前に準備するものについて書いてあります。薬で必要なものは消毒用の薬、包帯、アルコールとかですね、あと絆創膏も必要ですね。スペインの人がよく持っているのは針と糸ですね。
※編集部注/マメの手当て
火で焼いてよく殺菌した針で膿をぬいた後、よくマメを乾かし、綿などの自然素材の繊維でおおう。一晩そのまま置き、その後、消毒剤をぬっておく。残った皮ははがさないこと。
編集A:
湿布など、筋肉痛にどうですか?
澤田:
ええ、でもリュックは軽くしないといけないので、あれもこれもと持てないんです。現地の薬局にそういったものもありますよ。僕がふだん持ち歩いていたのは、寝袋と下に敷く銀色のマットぐらいです。
編集T:
バックパックは何kgぐらいになります?
澤田:
理想は7、8kgですね。2回目は奥さんがいたので、化粧水なども持たされたので12、13kgはあったと思うんですよ。かなりきつかった。
編集F:
銀色のマットですが、どういうものですか? 枕にするんですか?
澤田:
枕にはしません。枕にはシャツとタオルを使います。マットはテントなどで寝るとき、下に敷くものですね。
編集F:
ああ、そうか、野宿なんかもするんですか?
澤田:
そうですね。野宿する人もいますよ。
編集T:
野宿は禁止されてるって聞いたんですけど。
澤田:
それでも山の中に泊まっちゃう人はいますね。後、最低限の衣類ですね。基本的にTシャツは2枚、下着も2枚。靴下も2、3枚くらいです。
編集F:
じゃあ、洗濯するんですね。
澤田:
そうです。宿に着いたら、その場で洗います。
編集F:
胃薬とかそういうのは、持って行かないんですか?
澤田:
薬はあった方がいいと思います。特に日本から行く人は、ふだん飲んでいる正露丸とかがいいと思うんですね。向こうの薬は強すぎるので、あんまりお勧めできないです。
編集F:
ほかには?
澤田:
靴は登山靴1足、あとはサンダルですね。シャワー浴びたりするときとか、町を歩いたりするときに必要です。
編集A:
雨具はどうですか?
澤田:
僕はビニール袋を被りましたけど、あった方がいいですね。ちょっと大きめのポンチョみたいなものでリュックまで被せられるものがいいです。リュックは雨に濡れると重くなるので。
編集T:
傘は?
澤田:
傘はいらないです。
澤田:
僕は帽子被って歩いていたので、雨が降ってもそのままでしたね。
編集F:
なるほど、帽子はいりそうですね。
澤田:
夏、帽子は絶対必要ですね。
編集T:
暑いんですか?
澤田:
暑さ?すごいですよ。8月は12、3度しかない日もあるんですが、基本的に30度は軽く超えてきます。あと僕は持ってなかったですけど、手袋や軍手もあるといいですね。山の中や道なき道も歩いたりしますから。
編集F:
みんな杖を持っていますけど、必要なんですか。
澤田:
杖と水をいれるひょうたんと貝殻が、巡礼の3点セットですね。杖をついて歩くので、手にもマメができちゃいます。杖は現地のどこでも、おみやげ物屋さんなんかでも買えます。
編集F:
そうか、日本の木刀みたいなものですね。
澤田:
そうですね。日本に持って帰れないので、スペインの学校に置いてきました。たぶん、今でも飾られていると思いますけど。

貝のお守り

コンチャ

編集F:
この貝、なんて言うんですか?
澤田:
コンチャ。
編集A:
コンチャ・デ・サンティアゴ。
澤田:
コンチャは貝殻って意味ですね。
編集A:
フランス語ではコキーユ・サン・ジャック(サンティアゴ貝)って言います。ホタテ貝をサンジャック貝っていうんですよ。
編集F:
これは、どこで調達するんですか?
澤田:
さっきの杖といっしょで、どこでも売ってます。

命の水

編集A:
水や水筒はどうですか? 自動販売機は日本ほどには、ないですよね。
澤田:
僕は、あのスペインの民芸品、牛の革でできてる水筒を持っていきました。
※編集部注/ボタ・デ・ヴィーノ
子牛、ヤギ、羊から作られる革製の水筒で、ボタ・デ・ヴィーノと言う。高く持ち上げて細く流すようにし、口をつけずに飲む。もともとはアラブ商人が羊の胃袋に乳を入れて砂漠で使っていたもの。偶然、発酵してチーズになったとも言われている(チーズの起源)。しかし、現在お土産屋などで売られているものは本物の胃袋ではなく革でつくった胃袋形のもの(スペインの民芸品)。巡礼者用グッズとしては、ひょうたんの水筒を杖にぶら下げるのが実際の定番。
澤田:
でも、あれはワイン用ですね。みんなはスーパーで小さなペットボトルを買って、リュックのこういうとこにさして、歩いていましたね。
編集F:
こういうことは、すごく大事ですね。
編集A:
知識として必要ですよね。知らないで行って、びっくりする。どうしましょうって。
編集F:
そう。暑さで倒れそうになって、どうしようと思うよね
澤田:
でも、「とにかく荷物は軽く」です。ものすごく重いリュックできた人がいたんですね。初日一日歩いて、郵便局から荷物をほとんど家に送りかえしていました。みんな笑っていましたね。
編集A:
あたしもそうなりそう。
澤田:
女性の人は化粧品とか持っていくと思うんですけど、最後は気にならなくなりますから、置いていくといいと思いますよ。
編集A:
日本からスペインまではスーツケースで行っても、大都市のホテルなどに預けて、軽装になる必要がありますね。

自炊

編集A:
食器はどうですか?巡礼宿(アルベルゲ)って何もないんですよね。鍋ぐらいはあるんですか?
澤田:
巡礼宿(アルベルゲ)によると思うんですけど、基本的にはないと考えた方がいいですね。ただ、前の巡礼者が置いていくので、食器類や調理道具のほか、冷蔵庫を開けるとパスタまであったりします。

巡礼手帳 (クレデンシアル)

巡礼手帳 (表側)
巡礼手帳 (裏側)

編集F:
巡礼をはじめるにあたって、最初に巡礼手帳をもらわなければいけないのですが、これはどこでもらうんですか。
澤田:
ロンセスバージェスの巡礼宿(アルベルゲ)なら、多分もらえます。
編集F:
これが巡礼手帳(Credencial/クレデンシアル)で、こちらが巡礼証明書(Compostela/コンポステーラ)ですね。
澤田:
そうですね。巡礼証明書は、徒歩で100km以上、自転車で200km以上巡礼するともらえます。
編集F:
巡礼手帳に押してもらうスタンプは巡礼宿だけでなく、居酒屋(バル)や教会などにもあるんですよね。スタンプがあふれたらどうするんですか?
澤田:
あふれたときはまた、行った先で巡礼手帳をもらいます。僕は空欄がぴったりになるように計算しました。
編集F:
スタンプするところは巡礼手帳1冊で40箇所ぐらいですね。
編集T:
スタンプを押してくれるところは、一つの町にいくつもあるんですか?
澤田:
あるところもありますね。
編集A:
スタンプの絵は違うんですか、全部。
澤田:
全部、違いますね。僕は住んでいたバジャドリ(バジャドリード)の町の巡礼事務所で、巡礼手帳をもらいました。日本から行く人が、最初にスタートするところで一番多いのは、ロンセスバージェスのもう一つ前、フランスの町、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーだと思います。
※編集部注/サン・ジャン・ピエ・ド・ポー(Saint-Jean-Pied-de-Port)
教会の近くに巡礼事務所がある。ここで巡礼手帳をもらい、最初のスタンプを押してもらう。ここ(フランス)からスペインへ、国境を越えていくが、EU ( 欧州連合 ) 内なので通関手続きはない。
編集T:
じゃ、スタンプをもらえるところは複数あるんですね。
澤田:
複数ありますね。
編集F:
なるほど、これ、同じですか、みんな。
澤田:
町によって、若干違いますよ。違う種類を持ってる人もいました。
編集A:
フランスでは、フランス語のようですよ。
澤田:
クレデンシアルをもらったら、自分の名前とパスポートナンバー、あと住所とスタートした日を記入してください。そのあとはいろんな所で、スタンプをもらっていくことになりますね。
編集F:
巡礼宿で日付の入ったスタンプをもらうんですか。
澤田:
そうですね、まず、着いたときにスタンプもらって、それが、まあ受付代わりですよね。それからベッドに案内されます。
編集T:
出発の季節は夏がいいんですか?
澤田:
一年中、巡礼している人はいるんですけど、夏が一番多いです。ただ7月はスペインで一番暑い季節で、暑い日にはもう40度とかになります。だからみんな、朝早く出るんですよ。2時か3時が暑さのピークなので、その前に着いちゃうようにする。目的地に着いて、アルベルゲに荷物を置いて、ベッドを確保する。それから町にちょっと出て、ごはんを食べ、休憩して、お昼寝して、また夜になると町に出て、ちょっと飲み食いして、9時か10時には就寝。それで、また朝5時には起きる。
編集F:
早々とね、そうでしょうね。
澤田:
ええ、まあ、早く出るっていうのは、涼しい時間に歩くっていうのもあるんですけど、やっぱり次の町でベッドを確保するのがたいへんなんです。アルベルゲによっては20人とか30人しか泊まれない。それしかベッドがないところに、100人200人って人が押しかけるんです。
編集F:
確保しなきゃいけないんですね。
澤田:
巡礼宿は着いた順番なんです。早く着いて、ベッドを確保しないといけない。
編集A:
一泊しかダメっていうのは、決まりですか?
澤田:
そうですね。
編集A:
病気の人はいられますか?
澤田:
わかりません。そのときは病院に行ったほうがいいと思います。
編集T:
宿にあぶれた場合は、どうしますか?
澤田:
巡礼宿ではベッドがなくなっても、床で寝させてもらえるんですよ。
編集A:
寝袋で?
澤田:
そうですね。寝袋とあの銀のマットレスが役にたちますね。
編集F:
なるほどね。
澤田:
それもいっぱいでダメなときは、次の村まで5キロほど歩いて、そこで宿を探します。最近は小さな村でも巡礼宿(アルベルゲ)を提供してくれるところが増えています。1回目は、そんなになかった気がするんですが、2回目のときにはガイドブックに載ってない村にもありました。あと人によっては1週間か2週間に1回はホテルに泊まり、お風呂に入るっていう人もいます。アルベルゲは、毎日いろんな人が寝るベッドなので、清潔感からすれば、まだまだなんですね。
編集T:
ユースホテルみたいな感じですか?
澤田:
そんな感じですね。シャワーと2段ベッドに台所がついてる感じですね。そこで自炊してもいいし、町に出て食べてもいい、そんな感じです。